二人で恋を始めませんか?
突然の知らせ
会社に戻ると、打ち合わせの振り返りをしつつ、鎌倉のカフェの件も進める。
次回は車で行く為、アクセスや駐車場も調べた。

「都内から気軽に行けると分かれば、お客様も増えるかもしれない。車で行く利点をチェックしよう」
「はい。海が近いのは大きな魅力ですよね。その辺りもリサーチしておきます」
「ああ、頼む」

二人で何度も打ち合わせを重ねながら、カフェとアプリの件を同時にこなしていった。

そして迎えた2度目のカフェ訪問日。
朝から段取りを確認していた茉莉花は、ふいに聞こえてきた声に驚いて顔を上げる。

「えっ、華恵さん、結婚したんですか?」
「えへへ、そうなの。昨日婚姻届を提出してね。だから人事部に住所や氏名変更の手続きにいかなきゃいけなくて。ちょっと席を外すわね」

そう言って華恵が出て行ったあと、オフィスは大騒ぎになった。

「えー、ちょっとびっくり! いきなりすぎない?」
「ほんと。噂には聞いてたけど、もっとこう、結婚式の招待状とかで知らされるのかと思ってた」
「だよね。まさかの事後報告。お相手はもちろん、小澤課長だよね?」
「それはそうでしょー。でも課長、今も涼しい顔して普通に仕事してるね」

皆で奥のデスクに注目する。
小澤はいつもと変わらず、クールな雰囲気でパソコンに向かっていた。

「これは華恵さんに問い詰めねば。今日、みんなで華恵さん囲んでランチしよ!」
「うん、するする」

その流れで、近くのデスクの茉莉花にも声がかかる。

「茉莉花も行く?」

すると隣の席の沙和が代わりに答えた。

「あー、ごめん。今日私、茉莉花と二人で食べる約束してたんだ。ね? 茉莉花」

そんな覚えはないが、沙和の表情を見れば分かる。
自分を気遣ってくれているのだと。

「うん、そうなの」
「そういう訳だから、私たちはパスね。ごめーん」

いいよいいよ、と言って彼女たちが去ると、沙和は茉莉花にそっと尋ねる。

「茉莉花、大丈夫?」
「えっと、なにが?」
「だから、ほら。ショック受けてるんじゃないかと思って」
「……どうかな。よく分かんない」

小さく呟くと、沙和がギュッと手を握ってきた。

「ランチで話を聞くから。それまではあんまり考えないようにね」
「うん、ありがとう」

沙和は茉莉花にしっかりと頷く。
その言葉通り、茉莉花はとにかく仕事に集中した。
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