二人で恋を始めませんか?
恋の始まり
「おはようございます、部長。よく眠れましたか?」

翌朝。
優樹がリビングに行くと、服に着替えた茉莉花が、ルームサービスの朝食をテーブルに並べながら笑いかけてきた。

「おはよう。ぐっすり眠れた。君は?」
「私もぐっすりです。お風呂も先に入らせていただきました。部長も今から入られますか?」
「いや、朝食を食べてからにする」
「はい。では早速いただきましょうか。焼きたてのパン、美味しそうです」
「ほんとだ。いい香りがする」

二人で向かい合って座り、いただきますと手を合わせる。

「贅沢ですね、セレブみたいに優雅な気分です」
「そうだな。思いがけずいい気分転換になった。たまにはいいな、こういう休日も」
「ふふっ、はい」

屈託のない笑顔を浮かべる茉莉花は、何かが吹っ切れたように明るい雰囲気だった。

夕べ、優樹の腕の中で身体を震わせながら泣き続けた茉莉花は、やがて泣き疲れたのか、くたりと身体を預けてきた。

寝室に連れていき、おやすみとベッドに促すと、茉莉花は少女のようにあどけなく「おやすみなさい」と微笑んだ。

優樹はそんな茉莉花を最後にもう一度抱きしめると、そっと髪にキスをしてから部屋をあとにしたのだった。

「そう言えば部長。さっきカフェのホームページをチェックしたら、SNSが盛り上がってました。お客様が昨日の花火の写真や、浴衣の着付けサービスの書き込みをしていて、どれも楽しそうなコメントでしたよ。来年もまた利用したいって」
「そうか、よかったな」
「はい。店内のリニューアルも終わったし、お店の注目度も上がってますよね。私もようやくホッとしました。これからは、部長のアプリ開発の案件、私ももっとお手伝いしますね」
「ああ、頼む」
「はい」

食事を終えると、優樹はシャワーを浴びてから帰り支度をする。

「清水さんも車でマンションまで送るから」
「いえ、大丈夫です。実は少し鎌倉探索をしてから帰ろうと思いまして。せっかくここまで来たし、いいお天気なので」
「そうか……」

優樹は少しためらってから、控えめに聞いてみた。

「もし邪魔じゃなければ、一緒に回ってもいいか?」

え?と振り返った茉莉花が、パッと笑顔になる。

「はい、ぜひ!」

優樹は頬を緩めて頷いた。
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