二人で恋を始めませんか?
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前回と同じ個室に案内され、茉莉花は向かい合って座った優樹に思い切って話し出した。

「部長。私、ずっと小澤課長に片思いをしていたんです」

優樹は一瞬驚いたような表情を見せたあと、黙って頷き、先を促す。

「前に部長に、『周りのみんなに彼氏がいるのが羨ましくて、優くんという恋人がいるフリをしている』とお話ししました。でも本当は、小澤課長への恋心を隠す為だったんです。私はすぐに顔に出てしまうから、課長を好きだとバレてしまう。華恵さんにも課長にも迷惑をかけてしまうことだけは避けたくて。部長にも黙っていて、すみませんでした」

小さく頭を下げる茉莉花に、優樹は優しく語りかけた。

「話してくれてありがとう。実のところ、俺はそうじゃないかと気づいていたんだ。黙っていてすまなかった」
「いえ。そうですよね、私って演技がヘタで。でもだから部長は、あの夜オーベルジュで私に言ってくださったんですね。ちゃんと泣いたのか? って」
「ああ。君のことが心配でたまらなかった。だけど同情で好きになった訳ではない。俺は君の、優しくて純粋な心に惹かれたんだ。仕事にも真摯に一生懸命取り組むし、俺の頼もしいバディでいてくれる。頼みごとをすれば『もちろんです』とにこやかに答えてくれる。不器用で気の利いた言葉も言えない俺では、小澤の代わりにはなれない。だけど心から君を幸せにしたいと思っている」

真っ直ぐに瞳を射貫かれ、優樹の優しさが直接心に響く。
茉莉花はじわりと涙が込み上げてきた。

「私も、あなたが好きです」

震える声でそう告げる。

「小澤課長に対しての気持ちが全くなくなったのかと聞かれれば、正直分かりません。だけど私は今、あなたがそばにいてくれることが何より嬉しくて。こうして二人でいる時間が幸せで、ずっとこの関係を大切にしていきたいと思っています。それだけは本当です」
「ああ、それで充分だ。ありがとう」

優樹は微笑むと長い腕を伸ばして、茉莉花の目からこぼれ落ちた涙を指先でそっと拭う。

「俺こそごめん。君の小澤への気持ちが少しずつ薄れていくのを待つつもりだった。それなのに、どうしようもなく君への想いが溢れてきて、力づくで抱きしめたくなった。君の気持ちに寄り添いたいのに、自分を抑え切れなくなりそうで。だからわざと君と距離を置こうとした。情けない男でごめん」
「ううん、そんなこと……」
「これからはちゃんと自分の気持ちを抑える。君に嫌われたくないんだ。俺から離れて行かれるのが、何より辛いから」

茉莉花は涙で潤んだ瞳で優樹を見上げた。

「抑えなくていいです。私、あなたを嫌いになったりしないから。それよりも伝えてほしいです。あなたの気持ちを、そのまま」

優樹はハッと目を見開くと、茉莉花と視線を合わせて見つめる。

「俺は……、心から君が好きだ。どんな時もそばにいて、抱きしめて守りたい。傷ついた心を温めたい。いつも俺のそばで、笑顔でいてほしいんだ」

その言葉に、茉莉花はふわりと笑顔を咲かせた。

「私もあなたのことが好きです。これから少しずつ時間を重ねて、絆を深めて、ずっとずっとあなたのそばにいさせてほしいです」
「ああ、そばにいてくれ。俺が必ず君を守るから」
「はい」

ようやく二人は、心からの笑顔で頷き合った。
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