婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

1、夜会

煌びやかな灯りが広間を満たし、重厚なカーテンが窓の外の闇を遮っていた。

今夜は待ちに待った夜会。

政略結婚として決まった婚約者、クリフ・アルドリッチ皇太子と初めて、正式に出席する場だった。


私は、心の中で小さな期待を膨らませていた。

幼い頃から決められた婚約者だけれど、クリフは噂以上に優しく、誠実な人。

そんな彼と過ごす未来を想像すると、胸が熱くなる。


「アーリン、準備はできている?」母の声にハッとして鏡の前から離れ、微笑んだ。

「ええ、大丈夫よ」

私はいつもの自信を装いながらも、内心は少し緊張していた。

これから彼と向き合う夜が始まるのだ。


広間に足を踏み入れると、すでに多くの貴族たちが華やかな衣装で談笑していた。

その中心にいるクリフは、まるで光を纏っているかのように目を引いた。

彼の柔らかな笑顔は、私の心をふわりと包み込んだ。

彼がこちらに気づき、視線が合う。

私の胸は高鳴り、思わず顔が熱くなった。


「アーリン、今日はとても綺麗だよ」

クリフは優しい声でそう言った。

「ありがとう、クリフ」

私は小さく笑い返し、彼の隣に歩み寄った。

私は、幸せをじっとかみしめていた。
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