過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
翌日の昼下がり、神崎は一階の医療福祉相談室をノックした。
中から応じたのは、ソーシャルワーカー歴十年以上の女性職員。
白衣ではなくスーツ姿のその人は、神崎が珍しく一人で訪れたことに少し驚いたようだった。

「ちょっと相談がありまして」
「先生から?それは珍しいですね。どうぞ、おかけください」

勧められるまま椅子に腰を下ろすと、神崎は診療録の控えを手元に置いたまま、言葉を選びながら話し始めた。

「継続的な診療が必要な患者さんなんですが……経済的にも家庭的にも、かなり難しい状況です」

「ご家族の協力が得られないということですか?」

「はい。ご本人の話では、母親は行方不明。父親は別居中で、ふらっと現れては金銭を要求するだけの関係のようです。扶養義務や保険の管理も放棄されています」

ソーシャルワーカーは真剣な面持ちでメモを取りながら、頷いた。

「年齢は?」
「25歳。健康保険証は現在、所持していません。住所は実家名義のままで、実態としては一人暮らしです」

「実家には戻れない?」
「本人は明言していませんが、あの口ぶりだと無理でしょう。暴力の痕跡も確認しています。子どもであれば通告レベルですが、成人なので……」

神崎はそこで一度、口をつぐんだ。
ソーシャルワーカーは、その沈黙を促すように静かに言葉を添える。

「いずれ手術が必要な状態なんですね」
「はい。ただ、術前検査から通院、術後のケアまでを考えると、ある程度の支援体制が必要です。
本人は責任感が強く、周囲に迷惑をかけることを極端に恐れているようで……医療費負担や、手術後の生活にも不安があるようです」

「……なるほど。なるべく本人の負担にならない形で、制度や支援を検討してみましょう。ご本人と一度お話しできれば」

「ありがとうございます。まだ本人にどう説明するかは迷っているんですが……もう少し時間をいただけますか?」

「もちろんです。いつでも連絡してください」

やわらかな笑みとともに返されたその言葉に、神崎は少しだけ肩の力を抜いて、深く一礼した。
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